2011年7月31日日曜日

説教集A年:2008年8月3日年間第18主日(三ケ日)

第1朗読 イザヤ書 55章1~3節
第2朗読 ローマの信徒への手紙 8章35、37~39節
福音朗読 マタイによる福音書 14章13~21節

① 本日の第一朗読は、バビロン捕囚からの解放を告げる第二イザヤ預言者の最終の章からの引用であります。「渇きを覚えている者は皆、水のところに来るがよい。銀を持たない者も来るがよい」という呼びかけで始まる神の御言葉は、神を信ずる民を全ての飢え渇きから解放し、神の保護下にある新たな国で自由にまた豊かに生きれるようにしてあげようとする、神の大きな愛を示しています。しかし、「耳を傾けて聞き、私の許に来るがよい。聞き従って、魂に命を得よ」というお言葉は、心を何よりも神の御言葉、神の御導きに徹底して従う方に向けることを、求めています。そうすれば神は、民が数々の忘恩と裏切りの罪によって破棄したとこしえの契約を再び締結し、民の犯した罪も赦し、洗い流して下さることを約束しておられるようです。

② 本日の第二朗読は、かつて伝統的律法に対する忠実さ故にキリスト者を迫害した使徒パウロが、改宗後に体験した数々の困苦・迫害・危険と、そこからの神の導き・助けによる脱出とに基づいて語った確信であります。「私たちは、私たちを愛して下さる方によって輝かしい勝利を収めています」という勝利宣言や、「死も命も天使も、他のどんな被造物も」「神の愛から私たちを引き離すことはできないのです」という言葉には、涙ぐましい程の力と喜びが籠っているように覚えます。私たちもその模範に倣い、これからの将来にどんな苦難・病苦・災害などに出会おうとも、神の愛と助けを堅く信じつつ、勇気をもってそれらに対処するよう心がけましょう。

③ 本日の福音は、洗礼者ヨハネが殺された後、弟子たちと共に舟に乗って人里から遠く離れた所に退かれた主を慕って、数千人の大群衆が集まって来た時の話です。ちょうど農閑期で仕事がない時期だったのでしょうか。集まった群衆はほとんど皆貧しい人たちだったようで、食べ物を十分に持参していませんでした。彼らの求めに応じて、主が終日病人を癒したり長い話をなさったりした後、夕暮れになって彼らの所に残っていた食べ物は、パン五つと魚二匹だけでした。主はそれらを持って来させ、天を仰いで賛美の祈りを唱え、それらの食べ物を増やして全ての人が食べて満腹し、12の籠いっぱいになる程食べ残すという、神のみが為すことのできる前代未聞の偉大な奇跡をなさいました。この話を歴史的出来事として堅く信じましょう。私たち人間の側に信仰が生きているなら、神は、今日でもそのような奇跡をなさることに吝かでない程に、私たちを愛しておられる全能の方なのです。

④ ご存じでしょうか、今アジア各地では厳しい「水の争い」が発生しています。人口増加による食糧需要の高まりや、経済発展に伴う工業用水急増のためだと思います。インドでは、借金をして井戸を深く掘ったものの水が出ずに、自殺する農民が後を絶たないと聞いています。大工場による汲み上げ過剰で、地下水の層が年々深くなっているためだと思います。住民の経済格差も年々広がって、貧しい農民たちは、もう数千年来の自給自足の生き方では生活できない状況へと追い込まれているようです。このことは、ネパールや中国奥地の無数の住民についても同様に言うことができると思います。タイの穀倉地帯でも、農業と工業で水の取り合いが激しくなり、水不足が深刻になっているそうです。支配層は工業の発展で年々豊かになりつつありますが、その陰では国の近代化に恨みを持つ貧民が激増しつつあるのではないでしょうか。

⑤ 宇宙から見れば、地球は他のどの星にも見られない程美しい青い星で、まさに「水の惑星」であります。でもその水のほとんどは海水で、私たちの飲料になる淡水は、2.5%に過ぎません。しかも、その淡水の多くは南極や北極の氷山で、高い山の氷河なども差し引いた河川や地下水の量は、地球全体の水量の0.7%だけのようです。東大の沖教授の試算によると、水を安定的に得るのが困難な人たちは、今の段階で既に約25億人に上っていますが、今世紀半ばには約40億人に増加すると予測されているそうです。40億人と言えば、全人類の半数を超える人数ですので、商工業の国際的発展で支配層や中間層の人々がどれ程裕福になっても、各国政府はそれぞれ解消し難い深刻な問題を国内に抱えることになると思われます。それに、後進諸国が先進国並みに近代化するにつれて、先進諸国がどれ程努力しても地球温暖化は刻々と進み、気候の不順・自然災害の巨大化・生態系の乱れによる害虫や疫病の異常発生などで苦しむ人たちが、予想を遥かに超えて急増するかも知れません。更に、先日も申しましたように、巨大な過渡期に伴う心の教育の欠陥で、現代社会に不満を持つ人たちによる悪魔的な通り魔事件や自爆事件なども、文明社会の真っただ中に多発するかも知れません。

⑥ 間もなく北京オリンピックを開催する中国は、テロが発生しないよう数万人の警官を北京とその周辺に配備して物々しい様相を呈していると聞きます。南アジア諸国の首脳たちも、今テロ対策と食糧問題のために会議を開催しています。近代商工業の急速な発達で、国民の間に持てる者と持たざる者との格差が大きくなり、これまでのやり方ではもう生活して行けなくなる程、貧窮に追い込まれている人たちが増えて来ているからだと思います。

⑦ 悲観的な話をしてしまいましたが、これからの人類社会は決してこれまでのようには楽観できないように思います。神を無視した人類がその利己主義によって乱し苦しめた自然界からの反抗と反逆も、まともに受けることになる時代が来ると思うからです。人類の一部である私たちも、その苦しみを主キリストと一致してあの世での人類の救いのために喜んで甘受しましょう。神に対する愛と信仰を新たにしながら生活するなら、神の導きと助けによってどんな苦難にも耐えることができると信じます。一人でも多くの人がそのように生きることができるよう神の恵みを願い求めながら、本日のミサ聖祭を献げたいと思います。